東京ゲームショウは変革しようとしている。TGS 2021オフライン会場で感じた開催の狙いと変化


2021年9月30日からの4日間、東京ゲームショウ2021(TGS 2021)が開催されました。1年前の2020年はコロナ禍の影響でオンラインのみの開催となりましたが、今年はオンラインをメインにしつつ、幕張メッセのオフライン会場も設けられました。

このオフライン会場を自身の目で見てきて感じたことと、今後のTGSについて思うことを書いておきます。

■緊急事態宣言の中で開かれたオフライン会場

TGS 2021の初日となる9月30日は、幕張メッセがある千葉県に新型コロナウイルスの緊急事態宣言が発令中でした。翌10月1日には全国一斉解除となりましたし、感染者数も減少傾向ではありましたが、それでも昨年の同時期に比べると3倍程度の感染者が出ている状態でした。

ましてやオフライン開催が発表された3月には、デルタ株によって急激に感染が広がる第5波が来るとは予想できませんでした。そういったリスクを負ってもオフラインで開催したかったのには理由があるはずです。

私は開催初日の9月30日にオフライン会場に行きました。幕張メッセに到着したのは開場から数十分後と少々出遅れましたが、それでも過去のTGSからは想像できないほど人が少なく、道中の電車も含めてかなり空いていました。会場近辺や入口付近は、時間帯によってはイベント開催中とは思えないほど閑散としていました。

幕張メッセ内にある飲食店は休業。何とコンビニすらも開いておらず、店内に陳列された商品が物悲しさを醸し出します。

緊急事態宣言中なので、入場者数は5,000名以下に制限されていました。ただ実際に入場制限がかかった様子は見られませんでした。5,000人を超える状況ではなかったのだと思われます。

■インフルエンサーがオフライン会場に参加した意味

TGSは例年、木曜から日曜の4日間にわたって開催されます。そのうち平日となる最初の2日間はビジネスデイと設定され、業界関係者およびメディア関係者のみ入場可能となっています。若干の抜け道があるので建前上はということですが、その話は横に置いて。

今年は入場者がより限定され、4日間とも出展社とメディア関係者、およびインフルエンサーのみ入場が許可されました。

インフルエンサーの定義は、事前の募集内容によると、YouTubeで3万人以上のフォロワー、またはそれに準じることとされていました。TwitterなどではなくTouTubeを名指ししていることから、イベントの様子を動画で流して欲しいという意図が感じられます。

こういった取り組みは過去のTGSにはありませんでした。コロナ禍で一般来場者が来られない分、YouTubeでTGSの雰囲気や新作ゲームを楽しく伝えてもらおうというわけです。

開催初日と2日目は、より影響力の強いスーパーインフルエンサーに限定していたようです。実際に会場の様子を見る限り、一見してインフルエンサーだなとわかる人は少なく、メディア関係者が大多数を占めているように見えました。私が会場を見たのが初日の早い時間だったので、余計にその傾向が強かったとは思います。

スーパーインフルエンサーですから、節度を守って取材されていたのもあるとは思いますが、元気よくはっちゃけるほど会場のスペースは広くはなく、出展タイトルもそれほど多くなかった、というのもあると思います。あと今年の会場を見て、想像したものと違ってネタがなく、ガッカリして帰った、という人もいるのではないかと思います。

他に考え得る理由としては、とりあえずインフルエンサー登録はしたけれど、会場で見たいものが思ったほどないとか、緊急事態宣言中なので行くのを止めたとか(批判や悪評の原因になることは避けたいでしょう)、台風が近づいていたのでキャンセルしたとか(2日目が最接近の日でした)。複合的に考えて参加が難しかったのは確かだと思います。

この辺りの理由は、例年取材しているメディア関係者には関係ありません。私も参加を悩みましたが、この特殊なTGSは二度とないので見ておかねばと思い、ワクチンを最速で接種して、感染予防を徹底して臨みました。

今年の状況を見るに、インフルエンサーの目にはTGSが魅力的には映らなかったのだろうと想像できます。しかし今年はTGSの会場自体が特殊な状況。運営側も「とりあえずやってみないことにはわからない」という気持ちもあったと思いますし、来年もし元通りの規模でTGSが開催されたとしても、インフルエンサーを招待する動きは続けるでしょう。

YouTubeは若年層への影響力が強いですし、ゲームの主な利用者層も若年層です。若年層への訴求力が強いメディアとの関係性を強めていくのは自然な流れです。運営側、出展社側も、インフルエンサーにどう見てもらい、若年層へゲームの魅力を訴求していくのか、考えていくことになるでしょう。

なおゲームメディアを始めとしたメディア関係者にとっては、危機が迫っている状況だと思います。ゲームメディアよりインフルエンサーの相手をした方が費用対効果が高いとなれば、メディアの扱いはどんどん縮小されていきます。実際にインフルエンサーの力がどれだけあるかは未知数ですが、ゲームメディアとしては今より悪くなる要素しかありません。

ゲーム業界ではかなり前から「ゲームメディアに広告を出すより、ネットワーク広告を出す方が費用対効果が高い」と言われ、広告の獲得が難しくなっています。ゲーム会社の公式配信にゲーム実況者が登場するのも当たり前になった今の時代、TGSのインフルエンサー登場は、ゲームメディアの影響力をさらに下げる一因になり得ます。

TGSのようなイベントでは、最新情報を厚く濃く発信できるのはゲームメディアだけでしたが、今後はインフルエンサーとの競い合いや住み分けを考える必要が出てくるかもしれません。ゲームメディア側には一層の努力が求められますが、ゲーム業界の皆様には、ぜひゲームメディアとの新たな関わり方も前向きにご検討いただきたいと切に願います。

■極めて狭いオフライン会場の価値

TGS 2021のオフライン会場を見ると、幕張メッセの第8ホールの半分程度が出展社のブーストして使われていました。最近は1~8ホールを全て使ってもまだ足りず、離れの9~11ホールまで使う状態でしたので、広さだけなら十分の1未満です。

メディア関係者の動きを見ると、やはり会場に来ている取材の数は例年よりかなり少ないようでした。というのも、各メーカーがオンライン配信で最新情報を出すことが多く、会場にいるよりオンライン配信をチェックして記事を書く人員が必要なので、会場に割く人を減らさざるを得ないためです。

もっとも会場に来たところで見るものはそう多くはなく、ざっと見て回るだけなら1時間も要らない程度。少数あったゲームの体験コーナーも、初日に関してはほぼどれも待たずにやれる状態でした。もし私がメディア担当者なら、執筆を急がなければ、2人ほどで2日あれば必要な分は記事化できるかな、という見立てでした。

そうなると、コロナ禍の中で無理をしてまでオフライン会場を開くが必要だったのかどうか。個人的には、3つの意味で開くべきだったと思っています。

1つはインフルエンサー対応という新たな試み。今回出展した企業は、インフルエンサーとの付き合い方を学べたはずですし、直接の繋がりも持てる機会になりました。これは来年に大きく生かされるはずです。

2つ目は、TGSの存在感の維持。TGSはゲームメディアのみならず、国内外の一般メディアも多数来場します。NHKのニュースでも流れるくらいのイベントですから、日本の大きなゲームイベントとしての知名度を維持するために、たとえ小さくとも実際に取材できる受け皿があることは有意義です。

3つ目は、ゲームメディアへの露出です。情報発信という点だけで言えばオンライン配信で十分ですが、それは大手に限った話。小さな企業だと大手の配信のタイミングとうまくずらしていかないと、見てももらえないという状況が発生します。

オフライン会場であれば、出展していれば誰かの目に留まることはあり、そこからある程度の露出ができる可能性はあります。しかしオンラインだと、そもそも何かを発信することをメディアに伝えることから難しいですし、あらかじめ期待してもらえる情報を出せないと興味も持ってもらえません。これは大手とは大きな違いです。

今年はオフライン会場にIKEAが出展し、ゲームメディアからも大いに注目されました。オフラインイベントに出展すれば、小さな企業やゲーム外の企業でもゲームメディアに見てもらえる、ということが事例として残るのは重要です。今後はインフルエンサーの目に留まるかも、という期待も持てます。

危惧するべきは大手企業の動きです。2年連続のオンライン開催で、それなりの効果が確認できたとしたら、わざわざ高額な出展料を払ってまでオフライン会場に出展する価値を感じなくなるかもしれません。

実際にTGSだけでなくE3などの他のゲームイベントでも、ソニーやマイクロソフトなどのプラットフォーマーが出展を見合わせたり、独自に会場を設けてイベントを開いたりしています。任天堂はもともとTGSに出展していませんが、TGSに先駆けてオンライン番組で情報を出しています。大きなゲームイベントに直接出展しなくても、似たようなタイミングや場所で何かをやればいい、という流れが生まれています。

これが大手のゲーム会社にも波及していくと、オフライン会場の魅力がどんどん下がっていきます。たとえ一般客が入れるようになっても、イベント自体の魅力が下がれば来場者は減りますし、来場者が減ったら出展社としても魅力が下がっていきます。

TGSはこれまで、来場者が年々増え続けることでもイベントの魅力の高さを示してきました。ここ数年は増えたり減ったりでやや横ばいの傾向も見えますが、若年層人口の減少やゲームのオンライン化、スマートフォンなどコンシューマーゲーム以外の台頭などを考えれば、オフラインイベントとしてはかなりの強さを維持してきていると思います。

その流れがコロナ禍で大きく変容し、大手企業が「オフライン会場は要らないのでは?」と思い始めてしまえば、イベントの形は大きく変わります。それで割を食うのは、普段は目に留まりにくい、小さなゲーム会社です。

こうした企業を公式番組ですくい上げていくなどの動きは必要だと思いますが、やはり見せ方としては非常に難しくなります。日本のゲーム産業を維持して育てるのに、TGSには一定の価値があったと思っているので、今後もその流れが何とか生き残って欲しいと願います。

ちなみにオフライン会場の横には、配信に関わるブースがいくつもありました。これを来年以降、今年よりも縮小するわけにはいかないでしょうし、場所をどう確保するのかも気になるところです。

■Amazonには警戒すべきなのか

TGS 2021の開催に合わせて、一部報道で中国勢の強さと絡めた話が出ていました。オフライン会場で中国の強さを感じる場所はどこにもありませんでしたので、特に何も言うことはありません。

ただ個人的にはAmazonの動きが気になります。今年はAmazonにTGS専用のページが設けられ、TGS Amazon会場のようなふるまいになっていました。

https://www.amazon.co.jp/adlp/tgs

ここだけを見ると、Amazonで配信番組を見ながら、関連する商品をAmazonで購入できるようになっているのがわかります。新たに発表された商品の予約も、Amazonが商品ページを用意すればできるので、絡め方としてはわかりやすく上手だと思います。

問題は、Amazonがそれだけで満足しているのかどうか。AmazonはAmazon Gamesというゲーム開発部隊を持ち、先日、新作MMORPG「New World」を公開しました。世界中で話題となり、サーバーに接続できなくなるほどの大人気だそうです。

そのAmazonが、日本のTGSに少なくない費用を投じて絡んできている状態です。単純にAmazonでゲームを売りたいだけでも、日本国内におけるAmazonのゲーム販売に対する影響力がさらに強まることが懸念されますが、より日本のゲーム企業とのつながりが強くなったらどうなるのか。

AmazonはPrime Video向けに独自の番組を制作しています。ゲームも既に大作MMORPGを出す力がありますし、もっと開発力を高めようという動きは当然あるでしょう。となれば日本のゲーム開発会社は魅力的なパートナーになり得ます。

それが日本のゲーム業界にとって幸せなのか、そうでないのか。今の時点では何とも言えないのですが、しばらくしてから「浦賀に黒船が止まっているのに気づかないうちに開国されられていた」なんてことにならないか、漠然とした不安があります。

今のところは漠然としたものでしかないので、Amazonの今後の動きには個人的に注目していきたいと思います。もっとも、既に日本のゲーム販売の中心はAmazonになっているように感じますし、ゲームそのものでもAmazonのサーバーが大量に使われているので、今更ではありますが。Amazonはその程度で許してくれそうな相手とは思えません。

■こんなTGSはこれっきりにして欲しい

上は幕張メッセの7ホールの角からホールを見た写真です。何にもありません。うるさくて暗くて人だらけのお祭り的なTGSを知る身としては、取材がしやすくてとても快適だったものの、こんな形での開催はこれっきりにして欲しいという気持ちはあります。

ただ、もし来年、新型コロナウイルスが撲滅されて(絶対あり得ないと思っていますが)、2019年以前のTGSが開催できる土台が整ったとしても、元に戻ることはあり得ないと思います。

それは会場における感染予防策であったり、インフルエンサーによる取材対応の変化であったり、大手企業の出展見送りであったり、GAFAなどの巨大な力の影響であったり、コロナ禍における人々のライフスタイルや意識の変化であったり。

世界が非常に大きく変革する中、TGSも大きな変革を迫られた結果、今年のTGSの形になったわけです。今年の開催が成功か失敗かを述べるのはあまり意味がなく、アフターコロナで何ができるかの貴重なベンチマークであったと考えるべきだと思います。

オンライン開催は決して悪いことばかりではありません。遠方在住の人、あるいは身体的な問題で来場できない人にも、等しく楽しめる機会として素晴らしいものです。今年はVR会場もありましたし、様々な形で世界中の人に日本のゲームを訴求できる場になって欲しいと思います。

いずれTGSはお祭りとしての姿を取り戻すと思いますが、それが以前とは違う、もっと楽しいものであるといいなと願っています。もし2019年以前のTGSの姿に戻ってしまうとしたら、それが一番つまらなくて意義のないことだと思います。

■おまけ

今回のTGSではこちらの記事を書きました。

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