何より危惧すべきことは、私がゲームメディア業界に入ったおよそ15年前から、ゲームライターだけを専業でずっとやっている方というのは、私の知る限りほぼ誰もいません。私が知る範囲で一番近い存在は、ゲームライターコミュニティの主催である小野憲史さんですが、他にいらっしゃるならぜひご紹介いただきたいし、そんな方が居ていただきたと心から願います。
私自身にしても、ゲームライター歴は最初の半年、その後は編集部でサラリーマン記者を8年ちょいやって、今のライターを6年ちょい。ただ現在のライター業の主たる収入がゲーム分野だとは即答できないくらいに他分野の仕事が増えましたし、ライティング以外の仕事も請けています。編集でも企画でも講演でも何でもウェルカムです。なので私自身、ゲームライターとは積極的に名乗っていません。
なぜゲーム1本でやらないかと言えば、ゲーム以外のこともやりたいから、というのが最大の理由ではあるんですが、他にもゲーム1本では食えない、稼げないからというのも大きな理由です。
ゲームは単価の低さもさることながら、工数がかかりすぎるのが難題です。例えば「ゲーム1本クリアしてレビュー」となれば猛烈に時間がかかりますが、ゲームの場合は「どうせ好きで遊ぶゲームだから」と工数にカウントしないことが多いです。しかもライター側が自発的にそうします。ゲームライターは元々無類のゲーム好きなので、趣味のついでに仕事という意識でこうなりがち。それにメディアも乗っかって、Win-Winの関係! ってそんなわけあるかって話です。
話を戻して。「ゲームライターのキャリアパス」というのは、もちろん、ゲームライターになってからどう仕事を広げるか、という話を含んでいても構いません。ライティングの分野を広げるとか、作家もやるとか、専門分野のコンサルティング業みたいになるとか、ライターを使う側の編集者になるとか。
でもそのキャリアパスも曖昧で、千差万別だと思います。後から若者が追いかけられる、わかりやすいパスが見当たりません。ゲームライターになった後、そこからどう生きていけばいいのか、中長期的な見通しが具体的にならないのです。
少なくとも一般企業で定年と言われる程度の年齢までゲームライターという仕事を続けられればいいのですが、先に述べた通り、その半分にも満たない15年程度ですら、すぐ挙げられるゲームライター専門のスペシャリストが見当たりません。
私は編集者時代に、ゲームライターが続けられなくて転職した方、そのままフェードアウトして音信不通になった方をいっぱい見てきました。そういった方々はほとんどがゲームライター専業で、他のジャンルには手を広げていませんでした。逆に長くライター業を営んでいる方は、ゲーム以外のジャンルにも手を伸ばしたり、ライティング以外の仕事を兼務している方が極めて多いです。
だったら、ゲームライター経験者が他の人に向けて「ゲームライターになりませんか」というのは、すごく無責任なんじゃないか……と私は思ってしまいます。だからこそ、他力本願ではありますが、誰かゲームライターの比較的実現が容易なキャリアパスを提示してくれる人が出てきて欲しいのです。最初に紹介した松井さんの記事は後日掲載の後編があるようなので、ぜひ若者の未来と私の気持ちを救い出して欲しいと願っています。
ここまでの話に対して、「そんなの作家でもミュージシャンでも画家でも一緒。人気がなくなったら終わりなんだし、永続的に続けられると思う方が間違い」という反論はあろうかと思います。それはまったくそのとおりで、個人事業主として当たり前のことなんですが、それを社会に出る前の若者が想像するのは難しいし、社会経験を積んで想像力があるはずの大人でも長くやるのは困難だという事実は伝えねばならないと思っています。
ゲームライターを目指す若い方にアドバイスするなら、私を含む現役ゲームライター、あるいはゲームライター経験者のキャリアは千差万別なので、それらを数多く知っておくことは、自らの選択肢を増やす上でとても有益だと思います。また私の興味として、現役ゲームライターが自分の10年後・20年後をどうイメージしているかとか、ゲームライター60歳みたいな人の半生とかを聞いてみたいですね。お、企画として面白そう。